PCRとは?何の略?新型コロナウイルス感染症(COVID-19)検査で活用される技術をわかりやすく解説
監修医師プロフィール
堤 直也
社会人経験の後、医学部学士入学を経て、医師となる。
国立病院機構等勤務のあと青い鳥会に勤務し現在に至る。
総合内科医、在宅医療の専門医として在宅医療の意味に真摯に向きあう。
今までは多くの方が耳にしたことがなかったであろう「PCR検査」という言葉。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染が世界中で広がる中、PCR検査については「受けたほうがいい」「わざわざ受ける必要がない」など、さまざまな意見が出てきています。
ではそもそも、PCR検査の「PCR」とはどのようなもので、どんな意味があるのでしょうか?
実はPCRは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の検査だけでなく、世の中のさまざまな検査に使われている技術です。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は第三波が到来したと言われており、今後も社会が、そして一人ひとりが戦っていくべき問題です。
そこで、正しい知識を身につけるためにもPCRについて詳しくご紹介していきます。
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PCRとは?
PCR検査のPCRとはPolymerase Chain Reactionの頭文字を取ったもので、「ポリメラーゼ連鎖反応」という意味の言葉です。
単にPCRと呼ばれることもあれば、PCR法やPCR検査と呼ばれることもあります。
また、英語読みでポリメラーゼ・チェーン・リアクションとされることもあります。
ポリメラーゼとは、私たちの身体の中にあるDNAもしくはRNAという遺伝子が増幅する時に働く酵素のことです。
ポリメラーゼ連鎖反応という言葉は、主に分子生物学の分野で使われる専門的な言葉なので、聞いたことがない方も多いかもしれませんね。
高校の時に生物を専攻していたという方であれば、もしかしたら耳にしたことがあるかもしれません。
わたしは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のニュースで初めてPCRという言葉を知りました。
そういう方も多いと思います。
実は、PCR自体は最近できた技術ではなく、1983年にアメリカの生化学者であるキャリー・マリスによって発明された技術です。
キャリー・マリスは、この発明によってノーベル賞を受賞しています。
そんなにすごい技術なんですか?
PCRの技術が報告されてから現在に至るまで、分子生物学には不可欠な技術であるとされています。
それこそ大革命ともいえる発明で、PCRの登場によってDNA配列クローニングなどの実験が行えるようになり、感染性病原体の特定などに関わる技術の開発、DNA型鑑定などは飛躍的に進歩しました。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の検査をはじめとした疾病診断学のほかにも、科学捜査や農業試験など幅広い分野で使われている技術です。
歴史ある、確立された技術ということですね。
PCRの原理
PCRとはどのような技術なんでしょうか?
PCRで調べるのは、とても小さなものです。
たとえば新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のウイルスなどですが、ウイルスというのはとても小さいため、そのままでは通常の検査をすり抜けてしまい、正しい診断を行うことが難しくなってしまいます。
PCRでは、酵素や試薬などの薬品を使って、ごくごく少ない量だったウイルスの遺伝子の一部を数百万〜数十億倍にまで増やす(複製する)ことができます。
そうすることで、通常はすり抜けてしまうようなウイルスも見つけることができるようになります。
確かに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で行うPCR検査は、綿棒を使って鼻や口の粘膜を拭うだけで、調べるためのサンプルが少ないですもんね。
PCRはこのようにほんの少しのDNAサンプルから詳細を研究するために十分な量に増幅することを目的とした技術です。
PCRで遺伝子を増幅させる流れ
具体的にはどのようにしてPCRでDNAやRNAなどの遺伝子を増幅させるのですか?
まずは準備としてDNAを検体から分離します。
これは手作業でも行えますが、COBAS® AmpliPrep Instrumentなどを使えば人間が介入することなく自動で行うことができます。
その後は、下記のようなサイクルが行われます。
- 検体となるDNAを含んだチューブを90°C以上に加熱すると、2本鎖だったDNAが変性し、1本ずつの鎖に分かれる
- 今度はチューブを60℃ほどにまで急速冷却し、1本鎖のDNAとプライマー(複製したい配列と対になる配列を持った、人工的な20塩基ほどの鎖のこと)を結合させる
- プライマーが分離せず、かつ、DNAポリメラーゼが化学反応を起こしやすい温度まで再度加熱する(60℃〜72℃ほど)
- DNAが合成されるまで、温度を保つ(1〜2分ほど)
- ①から④までを1つのサイクルとして、これを通常は最高で35サイクルほど行い、DNAの断片を増幅させる
ちょっと難しいです…。
増やしたいDNAをバラバラにして、その半分と人工的に作ったプライマーを結合させることで倍々にDNAを増やしていく、ということでしょうか?
その通りです。
2本鎖のDNAを分離させて1本鎖にするので、1本鎖が2本になりますよね。
プライマーがそれぞれの1本鎖を補うように結合すると、2本鎖のDNAが2つできることになります。
上記のサイクルを繰り返していくことで1が2に、2が4にと倍々に増やすことができます。
これを35回行えば2の35乗となり、その数は34359738368という、とてつもない数になります。
そんなになるんですか?
倍々に増えていくので、とても大きな数になります。
もしもDNAが2本鎖ではなく1本鎖だったら、PCRは成立しなかったでしょう。
元々1本鎖なら35回行ってもDNAは35倍にしかならないからです。
でも、そんなにたくさん増やすとなると、検査にはかなり時間がかかるのではないですか?
ウイルスの培養というと、シャーレや試験管の中で生きたウイルスを研究者や専門家が研究室に閉じ籠もって数日や数週間など、長い時間をかけて増やしていくようなイメージがありますよね。
従来まではこのような方法でしたが、PCRではそのような長い時間はかからず、1時間ほどで検査を終えることができます。
たった1時間でできてしまうんですね。
そのためには、しっかりとした事前準備が必要です。
それさえできていればDNAが生きていても死んでいても検査ができます。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の検査の場合、どのようにして陽性か陰性かわかるんですか?
増やしたDNAの中にウイルスがいれば陽性、いなければ陰性という結果になります。
さまざまなシーンで活用されているPCR
PCR検査はてっきり新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のための方法だと思っていました。
もしかしたら、そんな風に思っている方も少なくないかもしれませんね。
しかし実は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)をはじめとした感染症検査はPCRの用途の一つでしかありません。
他にも、PCRは下記のような検査で使われています。
- 食品検査
- 土壌検査
- 水質検査
- 環境検査
- 出生前診断
- がんの遺伝子分析
- 臓器移植の組織タイピング
本当にたくさんの用途で使われているんですね。
具体的な例としては、たとえばブランド牛が挙げられます。
本当にブランド牛の肉なのかということを遺伝子判定によって確かめるときにPCRによる検査が行われます。
食品検査でも用いられ、メーカーが食品を販売する前に、製品にウイルスや菌が入っていないことを確認することができます。
PCRのメリット
ほかの方法と比べて、PCRにはどのようなメリットがありますか?
PCRのメリットとしてはまず、ほかの方法よりもDNAを早く増やすことができるという点があります。
そして、調べたい遺伝子がごく少ない量しかなかったとしても、大量に増やせるのもメリットです。
また、高い再現度での実験が行えることもPCRのメリットです。
PCRのデメリット
PCRにはデメリットもあるんでしょうか?
たくさんのメリットを持ち、開発から現在に至るまでさまざまな研究や開発に貢献してきたPCRですが、デメリットも存在します。
どのようなものでしょう?
PCRのデメリットとしては、事前にターゲットである調べたいDNAの配列を知らないと検査ができないことが一つです。
また、測定するDNAの試験開始時の量を測定することができないこと、汚染(コンタミネーション)に極端に弱いことがあります。
PCRの機器が比較的高額であることもデメリットと言えるかもしれません。
進化するPCR
PCRの基本的な原理は開発当初から変わっていません。
ですが、検査に用いる試薬の性能が向上したことやポリメラーゼの改良、検査に使用する機器やプラスチック容器が進歩したことによって、PCRの技術は年々進化しています。
新しいPCRの方法があるんですか?
新しいPCRが登場しています。
それは、リアルタイムPCRやデジタルPCRと呼ばれるものです。
リアルタイムPCR
リアルタイムPCRとはどのようなものですか?
通常のPCRのは、電気泳動法(DNA水溶液に電圧を加えてDNAを動かし、帯電する物質をそれぞれの大きさごとに分類する方法)を行うことで初めて検査の結果を知ることができます。
リアルタイムPCRでは電気泳動法を行うことなく結果がわかるため、汚染のリスクも減り、よりスピーディーに結果がわかるようになりました。
また、定量PCRといい、初期のDNA量の測定もできるようになってきています。
デジタルPCR
PCR、そしてリアルタイムPCRと進化したことで技術は発展し、DNAの量をより簡単に、正確に測ることができるようになりました。
しかし、リアルタイムPCRでも、希少な対立遺伝子検出などについては測定の感度が十分とは言えませんでした。
そこで、デジタルPCRが登場したんですか?
はい、デジタルPCRでは、増幅させるサイクル数に依存することなく、希少な対立遺伝子の検出やサンプル中のDNAの初期量を絶対定量することができます。
このデジタルPCRによって、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の検査結果の偏りやばらつきを抑えることを目的とした国際比較プロジェクトも開始されています。
まとめ
PCRは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)だけでなく、さまざまな用途や目的で利用されてきた技術です。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の陽性・陰性判定についてはまだ課題は残るものの、PCRの技術は発展を続けているため、今後も医学や薬学分野だけでなく、環境分野などさまざまな分野で大いに活用されていくことになるでしょう。
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